研究内容
◎エネルギ分散回折法による材料の非破壊的損傷評価技術の開発とその応用
材料の強度特性を把握するには,材料表面のみでなく表面から内部に至るまでの諸現象を非破壊的に総合評価することが必要であり,材料内部の情報をも得ることが可能な「エネルギ分散型X線回折法」に対する期待が高まっている.本研究では,材料の疲労過程における残留応力の深さ方向分布,および回折ピークの半価幅をエネルギ分散型X線回折法により測定し,これらの変化挙動から材料の損傷を推定する非破壊的疲労損傷評価手法について検討を行っている.また,X線の強度を低下させることなく10mm程度にまで収束させることが可能な細管X-ray Guide Tube(XGT),小型・高感度半導体検出器などの新技術を駆使し,軽量・可搬の超小型X線応力測定装置の開発も進めている.現在製作中のプロトタイプ機のヘッド部寸法は30×30×30cm3以下で,重量は10kgf以下である.従来のX線応力測定装置は,大型で持ち運びが困難で主に研究室での使用に限られるが,本装置が完成すれば,大型の実機構造部材などの現場測定が可能となり,機器や構造物の余寿命評価等に大いに貢献できる.
◎廃ガラス発泡化材の高機能化と屋上緑化用基材への応用
近年問題となっているヒートアイランド現象への対策として,屋上緑化が有効であると考えられているが,その緑化基材には,吸水性,保水性,軽量等の機能が必要であり,土壌に変わる新たな基材の開発が求められている.一方,色付き廃ガラスは年間100万トンもの埋め立て処理がなされており,その再利用法が求められている.このような背景から,本研究では,色付き廃ガラスを利用した発泡化ガラスの屋上緑化用基材への応用に着目し,吸水性や保水性に優れ,かつ軽量な廃ガラス発泡化材の開発や,廃ガラス発泡化材上での植物の植生に関する検討を行っている.
◎セラミック薄膜被覆金属材料における薄膜の破壊強度・はく離強度評価法の確立
金属材料の機械的性質を向上するために,これまで様々な方法によるセラミックコーティング技術が適用されている.薄膜の成膜条件は,標準的な試験法による膜特性の評価に基づいて決定されているが,薄膜の破壊強度・はく離強度を絶対的に評価する方法は確立していない.本研究室ではこれまでの研究より,セラミック部材表面層の破壊じん性評価に対する球圧子押込み試験法の有効性を明らかにした.そこで本研究では,DCマグネトロンスパッタ法により様々な成膜条件で超硬合金WC-Co基板上に成膜したTiN薄膜の破壊強度およびはく離強度の絶対的評価に対する球圧子押込み試験法の有効性を明らかにすることを目的として,様々な実験及び解析を行っている.
◎セラミック薄膜コーティングによる金属材料の疲労き裂進展特性の向上
これまで,金属材料のS−N曲線(応力−破断寿命関係)に及ぼすセラミックコーティングの影響が明らかにされている.ただし,疲労き裂進展特性(き裂進展速度−応力拡大係数範囲関係)に及ぼす影響に関しては検討されていない.そこで本研究では,DCマグネトロンスパッタ法により様々な成膜条件でTiN薄膜をコーティングした航空機用高強度Al合金(板厚1.0mm),自動車用高張力鋼板(板厚1.0mm),および極薄板ステンレス鋼材(板厚0.05mm)の切欠き試験片を製作して,疲労試験を行ってそれぞれのき裂進展特性に及ぼすコーティングの影響を調べ,その結果に基づいて最適な成膜条件を明らかにすることを目的にしている.疲労試験は,油圧式疲労試験機,電磁加振式疲労試験機を用いて行っている.
◎窒化チタン薄膜の機械的特性とその高機能化に関する研究
スパッタリングにより作製したTiN薄膜の各種機械的特性は,成膜条件により複雑に変化するため,必要とされる複数の特性を兼ね備えたTiN薄膜を得るための成膜条件の決定は容易ではない.本研究では,TiN薄膜の各種特性を総合的に向上させ,さらなる高機能化を図るための成膜条件の決定指針,さらには基板の前処理や成膜後の熱処理なども含めた総合的な製造指針を示すことを目的に研究を行っている.これまでに,一見複雑に見えるバイアス電圧,ガス圧,放電電流等の影響が,スパッタ粒子の膜衝撃エネルギにより一元的に説明できることを示した.また,その結果をもとに,TiN薄膜の各種特性を総合的に向上させるための合理的な成膜条件の決定指針を提案した.さらに,Ti中間層の活用や成膜後の熱処理が,TiN薄膜のさらなる高機能化に有効であることを示した.
◎転がり疲労はく離形状に関する破壊力学的考察
ベアリング等における転がり疲労によるはく離の発生メカニズムを明らかにすることを目的とし,破壊力学的な手法を用いたはく離形状に関する考察を行った.転がり疲労試験により発生したはく離の形状を詳細に観察・測定し,はく離の深さ,幅は,球−平板接触応力をもとに算出した応力拡大係数により推定が可能であることを明らかにし,破壊力学的な考察に基づきはく離発生メカニズムを一部説明した.また,転がり疲労下における表面き裂の進展問題や,表面改質技術の利用による転がり疲労寿命の向上化にも取り組んでいる.